先日、三軒茶屋で上演された演劇「チック」を観に行きました。演劇を観るのは数年ぶり。足を運ぼうと思ったきっかけは、公演に手話通訳が付く日が二日間だけあることを知ったからです。ろう者の演じるお芝居や舞台は何度か見たことがありますが、手話通訳が付く聴者の演じる舞台は初めて。どのようなかたちで手話通訳が付くのか、どのように進行していくのか、興味が湧き、すぐにチケットを手配しました。しかし、すでに通訳が立つ、舞台左の側は残りの席が少なく、最前列のみ。チケット交換でも受付の方に「人気の会なんですよ」と教えていただき、さらにワクワクが膨らみました。
初めて見る舞台の手話通訳
初めての舞台手話通訳は、良い意味で期待を裏切られっぱなしの2時間45分。開演前は長めのお芝居だなと思っていましたが、物語の独特の雰囲気があり客席を巻き込みながらのお芝居はあっという間に時間が過ぎていきます。
手話通訳側の一番前の席。舞台全体と手話通訳を一望するには少し前過ぎの席。「手話」、「演者」、「手話」、「演者」と交互にみているものの、手話表現に没頭すると演じている方を見るのを忘れてしまい、おっと忘れてた、耳に頼ってしまったと我に返ることも度々あるほど、魅力的な手話表現。講演会などでも、つい手話通訳に夢中になってしまい登壇者に目を向けることを忘れてしまう、手話勉強者あるあるです。
手話通訳者も一人の演者
手話通訳者の位置は舞台の左端でしたが、物語と連動して立ち位置を変えたり、時には演者さんと絡んでみたり、「舞台手話通訳」とはあるものの、通訳者も一人の演者として舞台に立っていることに感動。演者と手話通訳者がやり取りをする場面は、客席からも笑いが起こるほど。客席には初めて手話を目にする人もいるかもしれません。その人たちにはどのような印象を持ってもらえたのでしょうか。聴こえる人にとって、今日見た手話が少しでも気になると思ってもらえてたらうれしいなと思うし、自分が手話を知らない時分に、このような舞台と出会っていたら、手話に興味を持っただろうと思います。
もっともっと、たくさんの手話のカタチを見てみたい
通常の手話通訳であれば20分くらいで、通訳者が交代しながら行いますが、今回は劇作家・演出家・舞台手話通訳家の米内山陽子さんがすべてお一人で通訳。もちろん、なんども稽古を行っての舞台ですから、講演会などの手話通訳のように初聞きではないで3時間近くをお一人で通訳することも可能なんだと思いますが、普通に考えてもすごいことです。何人もの役を一人で通訳する。通訳だからってセリフだけを表現するのではなく、表情、感情、身振り、それぞれの役になって通訳を続けるのですから、ものすごく集中力と体力を使うでしょう。
手話を通して、「創り上げる」ということを体験できたと思います。お芝居の感動と手話の感動を味わえる贅沢な時間を過ごせました。決められたことを正しく伝えるだけではなく、手話通訳が加わったことでの付加価値と、その付加価値の見せ方がさすがだなというか、手話や手話通訳を知らない人にとっても興味が湧く演出だったのではないでしょうか。お芝居という世界での、手話通訳のひとつの形を観ることができたと思います。
手話通訳にはたくさんのカタチがあることを知り、これからももっと自分で体験し、自分はどのように手話と関わるのかを探していきたいと思います。
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